東京地方裁判所 昭和63年(ワ)12055号 判決 1993年4月22日
原告
河内紀恵
被告
久保谷明美
主文
一 被告は、原告に対し、金二三五八万一八九三円及びうち金二一五八万一八九三円に対する昭和六三年九月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。
四 この判決は、原告の勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金六二〇九万五四〇三円及びうち金五六五九万五四〇三円に対する昭和六三年九月一四日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、被告の運転する普通乗用自動車と原告の運転する自転車との間の交通事故によつて受傷した原告が、被告に対し、自賠法三条本文に基づき損害賠償を請求している事件である。
一 交通事故の発生等
1 交通事故
昭和六二年一〇月二二日午後零時ころ、埼玉県草加市柳島町七七四番地先の道路(以下「本件道路」という。)上(以下「本件事故現場」という。)において、東京都方面から川口市方面に向けて進行していた被告の運転する普通乗用自動車(足立五九む二七五五、以下「加害車両」という。)と自転車(以下「被害自転車」という。)に乗つて走行していた原告とが衝突した(以下「本件事故」という。争いがない。)
2 原告の受傷
原告は、本件事故によつて、外傷性肝破裂、膵臓破裂、右腎血腫、右肘脱臼骨折、右尺骨骨折、頭部外傷、全身打撲等の各傷害を負つた(甲二)。
3 運行供用者
被告は、本件事故当時、加害車両を自己のために運行の用に供していた者である(争いがない。)。
二 争点
被告は、本件事故の態様について、加害車両の進行車線左側を加害車両に対向して進行してきた被害自転車が、突然加害車両の前部に倒れてきたもので、本件事故は専ら原告の過失によつて発生したものであるとして自賠法三条ただし書の免責を主張し、仮に右主張が認められないとしても過失相殺すべきである旨主張する。右各主張の当否、並びに原告の後遺障害の程度及び損害額が本件の主要な争点である。
第三争点に対する判断
一 本件事故の態様及び免責の主張について
1 前記第二の一1、2の事実と証拠(甲一、五ないし七、乙一ないし六、一四の一ないし三、一五の一ないし三、一六、証人中島優子、証人鷺谷正道、証人大久保敏夫、原告本人、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が明らかである。
(一) 本件事故現場は、東京都方面から川口市方面に通ずる片側各一車線のアスファルトで舗装された平坦な見通しの良い直線道路(県道、本件道路)上である。本件道路の両端には白の実線(外側線)がそれぞれ表示され車道を区画しており、車道の幅員は約六・三メートルであり、車道の西側(加害車両の進行車線側)には幅約〇・四メートルの舗装された路側帯があり、更に西側にはU字溝及び路肩(場所により草木が茂つており、本件事故現場付近の路肩では自転車等の走行は困難である。)があり、車道の東側には車道内に白線で表示された車道外側線によつて区分された幅約一・八メートルの舗装部分及び車道外に幅約二・四メートルの歩道があり、同歩道との間にはガードレールが設けられている。また、本件道路は、最高速度時速四〇キロメートル、駐車禁止、追越しのための右側部分はみ出し禁止の各交通規制がなされ、本件事故現場付近の交通量は普通である。
(二) 本件事故発生日である昭和六二年一〇月二二日ころは、本件事故現場の西側路側帯付近では、夜間に工事が行われており、同所外側線付近には、道路工事用バリケードが数脚置かれていたほか、若干の工事用資料(コンクリート製のU字溝の蓋等)が路肩に置かれ、また、同路側帯は路肩の方向へ傾斜し、路肩との間に段差があつて、本件事故現場の東京方面寄りのところに、「工事中」及び「この先段差あり」との表示のある看板が各一脚立ててあつて、同所付近の路側帯は自転車に乗つて通行することはできない状況であつた。
(三) 被告は、昭和六二年一〇月二二日午後零時ころ、本件事故現場付近を、東京都方面から川口市方面に向かつて加害車両を運転し、時速約三〇ないし四〇キロメートルで走行し、前方左側の路側帯付近において、反対車線に対向車両があつたため左側に若干進路を寄せて進行したところ、加害車両が被害自転車に搭乗中の原告の身体とが衝突して本件事故が発生し(その衝突場所を、以下「本件衝突場所」という。)、そのため、原告は、外傷性肝破裂、膵臓破裂、右腎血腫、右肘脱臼骨折、右尺骨骨折、頭部外傷、全身打撲等の各傷害を負つた。
(四) 本件事故発生の直後、本件道路の東側にある店舗(家具の卸問屋「和昌工芸」)の従業員である中島優子(以下「中島」という。)は、蓮沼某という女性の知らせで本件事故の発生を知り、救急車を手配した後、右蓮沼とともに本件事故現場まで赴き、センターライン近くまで行つて現場を見たところ、本件道路西側の外側線付近に、原告がその頭部を路肩寄りに、足部を中央線寄りにして仰向けに倒れているのを発見した。また、そのときには、被害自転車と道路工事用バリケード一脚(以下「本件道路工事用バリケード」という。)が、原告が倒れていた付近のU字溝辺りに立ててあつた。
(五) 被告は、本件事故が発生した際、加害車両の左側面で「ガリガリ」という音がしたのを聞いたが、そのまま加害車両を進行させ、いつたんその場を立ち去り、中島らが本件事故現場に赴いてからしばらくして、草加市消防署の救急車が到着する直前になつてから、本件事故現場に加害車両を運転して引き返してきた。間もなく原告は同署の救急隊員らによつて応急措置を施されて運ばれ、その後所轄の草加警察署の警察官らが到着し、被告から本件事故について事情を聴取し、本件現場を実況見分するなどの捜査を実施した。
(六) 加害車両は、車長約四一五センチメートル、車幅約一六四センチメートル、車高約一三八センチメートル、車両重量約九九〇キログラムの普通乗用自動車であり、本件事故発生日の翌日である昭和六二年一〇月二三日、草加警察署の警察官大久保敏夫らによつて実況見分が実施されたところ、前部バンパー(地上高約五〇センチメートル)の左前部が約一センチメートル下方にずれており、左前部の左方向指示器(下部の地上高約四一センチメートル)及び前部バンパー下の左側フォグランプ(下部の地上高約二一センチメートル)がそれぞれ破損し、同フォグランプには繊維及び米糟大の血液が付着しており、前部スカート(下部の地上高約二四センチメートル)には、その左前部に凹損があり、左前面から後方に約二一センチメートルのところに毛髪一本が付着しており、また、加害車両の左側面については、前方の左方向指示器(地上高約五五・四センチメートル)が破損し、前部左ドアには、地上高約六六センチメートルから約六七センチメートルにかけてほぼ水平に長さ約四センチメートル、幅約一センチメートルの凹損があり、その凹損に連続するように右上方に約一八センチメートルのすじ状の擦過痕があり、更に、前部左ドアと後部左ドアの境付近には、地上高約七七センチメートル及び約七一センチメートルのところに、長さ約三・五センチメートルの二条の擦過痕があり、後部左ドア及び左側面後方には、黄色の塗料の付着する擦過痕があつた。
他方、被害自転車は、長さ約一七〇センチメートル、ハンドルの幅約五四センチメートル、ハンドルの高さ約一〇〇センチメートル、サドルの高さ約七七センチメートル、タイヤの外径約五五センチメートル、重さ約一九キログラムの本体の色が白色の自転車であり、右実況見分の際、本件事故によつてその前部に取りつけられていたかごとハンドルが曲り、後部荷台が右方向に歪んでいたが、後部フェンダーには後方から外力が加わつた痕跡はなく、後部に取りつけられている反射器材も破損していなかつた。
また、本件工事用バリケードは、高さ約八〇センチメートル、幅約一二〇センチメートルであり、黄色と黒色で塗装され、本件事故によつて脚の下部の一部分が破損した。
2 右のとおり証拠上明白な客観的諸事実と原告がその本人尋問において、「自宅から叔父である荒川栄吉宅まで行くため、被害自転車を運転して本件道路を通つたが、川口市方面から東京都方面に向かつたときは、本件道路の東側にある歩道上を走行し、本件事故現場を通り過ぎて一旦左折して叔父宅に向かつて東進している途中、ガスの元栓を締め忘れたのではないかと思つて、自宅に引き返すこととし、本件道路に戻つて東京都方面から川口市方面に向かつたときは、加害車両の走行車線左側を走行したところ、その際本件事故に遭つた」旨供述していること、本件事故後いち早く到着した草加市消防署所属の救急隊員が作成した救急活動記録票である甲第一号証にも原告の右供述に沿う記録があること、本件事故によつて原告が受けた傷害の部位は、前記のとおり右肘脱臼骨折、右尺骨骨折のほか、甲第二三証の一・二によれば、本件事故による内蔵破裂も身体の右側を中心としたもので、原告が進行右側に転倒したことを窺わせる事情があること等の事情を総合すれば、被告は、本件衝突場所において、同一方向に進行する被害自転車を追越す際に、本件工事用バリケードに接触して加害車両の進路前方に倒れ込んだ原告の身体に加害車両の左前部を衝突させたものと認めることができる。
3 これに対して、被告は、本件事故の際、被害自転車は加害車両に対向して進行していた旨主張し、本人尋問においてその旨供述する。しかし、被告は前記のとおり、いつたんその場を立ち去ろうとするなどの不審な行動をとつているばかりか、その本人尋問における供述においても、ブレーキを踏んだか否かについての問いに対し、「多少踏んだのですが、強く踏む以前にもう原告自転車が倒れて来て、対向車もいたし、の後ろの車も目前に迫つていたので、急に右に避けることも出来ませんでした。」と答えるなど、あいまいで不可解、不自然(衝突を感じたら急ブレーキをかけるのが自然である。)な供述をしていることに加え、前記証拠上明白な諸事実並びに前掲原告の供述及び証拠に照らして採用し難い。
なお、証人鷺谷正道は、草加警察署の警察官であつた同証人が、本件事故当日、本件事故現場付近の実況見分を実施したところ、本件衝突場所よりも東京都方面寄りの本件道路上に比較的新しい擦過痕様の痕跡を発見し、右痕跡は原告の運転していた被害自転車が転倒した際に印象された転倒痕であると判断したうえ、その旨交通事故現場見取図に記載した旨証言しているところ、被告はこれをその主張及び供述の裏付けになるものであると主張している。しかし、加害車両と原告の身体が衝突した場所はこれを厳密正確に特定することができるものではなく、右証人作成の実況見分調書(乙三)によつても本件道路上の新しい擦過痕様の痕跡と本件衝突場所とされている地点とはそれ程距離があつたと表示されているわけではない。したがつて、証人鷺谷正道の証言及び乙第三号証の記載は、被告の前記主張及び供述の裏付けとなし得るものではない。
4 以上によれば、原告にも車道側に進出するに際し後方の確認が十分でなく、加害車両の進路前方に倒れ込んだ点に過失があつたことは認められるが、被告にも、前方不注視のほか、前記のような道路状況にもかかわらず、加害車両を進行車線の左に寄せ過ぎ、適宜減速停止の措置をとらなかつた点に過失があつたと認めるのが相当であるから、本件事故発生について被告が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたとして自賠法三条ただし書により免責されるべきである旨の被告の主張はその余の点を判断するまでもなく理由がない。
二 原告の入通院経過及び後遺障害の部位・程度
前記認定事実及び証拠(甲二ないし四、八ないし一一、一四、一七、一九の一ないし一四、二二、二三の一・二、二四、鑑定人兼証人小林建仁、鑑定の結果、原告本人)によると、次の事実が認められる。
(一) 原告は、本件事件後、直ちに医療法人三誠会川口誠和病院(埼玉県川口市所在)まで救急車で運ばれ、右肘脱臼骨折と右尺骨骨折に対する治療を受けた後入院したが、極度の貧血状態と腹部の膨隆があつたことから、腹部の超音波検査をした結果、肝破裂等が判明し、即日、肝部分切除の手術(右手術の開腹時には、腹腔内に約四〇〇〇ミリリットルの血液が溜まつており、手術中の出血量は約九六八四ミリリットル、手術中の輸血量は約八七五〇ミリリットルであり、十分な止血ができなかつたため、ミフリッツガーゼによる止血術を行つた。)を施されたところ、原告は、右手術の際の大量の輸血のため、昭和六二年一〇月二三日には前DIC(汎発性血管内凝固症候群)状態となり、昭和六二年一〇月二四日にはARDS(成人型呼吸窮迫症候群)状態となり、DICに対しては投薬による治療を、ARDSに対しては気管切開術及び人工呼吸器を中心とする呼吸管理による対症療法が約一〇日間施行され、昭和六二年一一月七日には前記ガーゼの除去術を施行されたが、その際、腹腔内には強度の癒着があり、その癒着を剥離した際横行結腸及び肝湾曲部を損傷したため、単純縫合術も併せて施行された。原告のその後の経過は良好であり、昭和六二年一一月一三日には右肘関節脱臼骨折、右尺骨骨折に対して観血的整復内固定術を施行されたが、前記横行結腸縫合部の縫合が不全であつたため、同年同月一八日、再縫合手術が施行され、結局、昭和六二年一〇月二二日から昭和六三年二月二五日までの間(一二七日間)、同病院に入院した。
また、原告は、右退院後も、同病院に通院し治療を続けていたが、肝外傷を原因として、平成元年四月八日には胆のう炎の症状が発生し、超音波検査の結果、胆石が認められ、同年同月九日から同月二四日までの間(一六日間)、急性胆のう炎、胆石症及び術後肝障害のため同病院に再度入院し、その後も右治療のため同病院に通院し、同月二四日及び翌二五日の二日間、右前腕骨々折の手術の際に使用したプレートを右腕から抜去する手術をするため、同病院に三度目の入院をし、その後も同病院に通院した(入院日数は計一四五日、平成二年六月一六日までの通院実日数は二三二日)。
(二) 原告は、本件事故によつて、慢性肝炎及び胆石症に罹患し、そのため全身倦怠感及び胆石による疼痛がときどき発現するなどの症状が残り、右各症状は川口誠和病院院長である服部俊弘医師により、平成二年七月一六日には症状が固定したと診断されたものの、右慢性肝炎は今後も再燃を繰り返しつつゆつくり進行し、将来的には肝硬変に移行する可能性が高い状態であり、平成三年五月二〇日現在(本件鑑定時)行われているインターフェロンによる治療も、一般的にはより長期的、大量的に投与した方がその治療の成果があるとされているが、その副作用として、発熱、全身倦怠感、食欲不振、血小板減少、白血球減少等があり、その発症程度も高く、結局原告としては、終身にわたり安静にしていることが望ましく日常生活における行動もかなり制限される見込みであり(鑑定人兼証人小林建仁は、右障害は腹部臓器の機能に障害を残し、軽易な作業以外の労務に服することができないものと判断している。以下「本件後遺障害」という。)、胆石症については、経口薬の投与による治療を継続しており、将来的には手術を必要とする可能性が大きいが、肝障害のためその手術には危険を伴う状態である。
また、原告は、前記肝破裂の手術等のため、上腹部全体に手術痕が残り、腹壁ヘルニアとなつており、腹部に力をいれることが困難なため、大声を発することはできない状態であり、また、前記気管切開術のため、頸部には気管切開による声門下気管の瘢痕(鶏卵大には達していない。)が残つた。
三 損害
1 治療費等 二〇六万六三六〇円〔請求額右同額〕
前記認定によれば、原告は、本件事故のため、昭和六二年一〇月二二日から平成二年六月一六日までの間、前記川口誠和病院において入通院(入院日数計一四五日、通院実日数二三二日)を繰り返しており、証拠(甲三、一〇)によれば、右入通院について原告が支出した治療費等は、計二〇六万六三六〇円と認められる。
2 入院雑費 一四万五〇〇〇円〔請求額一七万四〇〇〇円〕
前記認定によれば、原告は、本件事故のため、合計一四五日入院しているところ、その入院期間中に諸雑費を必要とすることは明らかなので、通算して入院一日当り一〇〇〇円とし、一四五日分の合計金一四万五〇〇〇円を入院雑費として認めるのが相当である。
3 入院付添費 五六万二五〇〇円〔請求額六五万二五〇〇円〕
証拠(甲二四)及び弁論の全趣旨によれば、原告の前記入院期間中、原告の両親らが付添つていたことが窺われ、少なくとも、昭和六二年一〇月二二日から昭和六三年二月一二日までの間(一一四日)及び平成元年四月九日から同年同月一九日までの間(一一日)の計一二五日は、近親者等の付添いが必要と認められるので、一日当り四五〇〇円とし、一二五日分の合計五六万二五〇〇円を入院付添費として認めるのが相当である。
4 将来の治療費〔請求額九三万一六七〇円〕
前記認定事実及び証拠(甲一九の一ないし一三、原告本人)によれば、原告は、本件後遺障害の症状が固定した日以降も、浦和市立病院及び小倉病院(東京都世田谷区所在)等において、慢性肝炎等の治療を継続し、その治療費として年間数万円程度の支出をしており、今後もその症状の増悪を抑制するための治療を必要とするであろうことは窺われるが、鑑定人兼証人小林建仁は、「原告の慢性肝炎に対するインターフェロンによる治療方法はその投与期間及び投与量について模索段階であつて確立していない」旨の証言をしていること等からすると、将来における原告の治療費を確定することは困難であると言わざるをえない。したがつて、原告主張の将来の治療費については、後記慰謝料の斟酌事情として考慮することとし、独立の損害項目として算定しないこととする。
5 後遺障害に基づく逸失利益 一七一九万五九六二円〔請求額三四九七万〇八七三円〕
証拠(原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告(昭和三九年六月二五日生、事故時満二三歳)は、本件事故当時東京芸術大学声楽科四年生に在学し、将来声楽家を志望していたことが認められるが、将来いかなる職業に就き、どの程度の収入を得るかについて予測することは極めて困難である。しかしながら、原告は本件事故当時健康な女子であつたから、本件事故に遭わなければ、本件後遺障害の固定日(満二六歳)から満六七歳までの間何らかの職業に就くか主婦として稼働するものと考えられるから、原告の本件後遺障害の部位・程度に照らして、その労働能力喪失率を三〇パーセントとし(腹壁ヘルニアのために大声を発することが困難である等のため原告の右志望を実現することに重大な支障が生じたことは後記慰謝料の斟酌事情として考慮することとする。)、平成二年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計の女子労働者の旧大・新大卒の平均年収額である三八三万六八〇〇円を基礎とし、本件後遺障害の固定日(満二六歳)から満六七歳までの逸失利益につき、ライプニッツ方式(係数一七・六六二七から二・七二三二を減じた一四・九三九五)によつて年五分の割合による中間利息を控除して、原告の逸失利益の本件事故時の現価を算定すると、一七一九万五九六二円(一円未満切捨て)となる。
6 慰謝料 一六〇〇万円〔請求額一七八〇万円〕
本件事故の態様、原告の傷害の部位・程度及び治療経過、入通院の期間、後遺障害の内容・程度、将来受けることが予想される不利益、事故時における原告の年齢、本件事故が原告の進路に与えたであろう影響の程度、その他本件の審理に顕れた一切の事情を考慮すると、原告が本件事故によつて受けた精神的苦痛を慰謝するには、一六〇〇万円をもつてするのが相当である。
四 過失相殺
前記のとおり本件事故発生については原告にも過失があつたと認められ、その態様、程度等を考慮すると、右過失割合は四割とするのが相当であるから、これを斟酌して原告の右損害額合計である三五九六万九八二二円から四割を減額すると、過失相殺後の損害残額は二一五八万一八九三円(一円未満切捨て)となる。
五 弁護士費用 二〇〇万円〔請求額五五〇万円〕
本件事故の態様、認容額、審理の経過等に鑑みると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、二〇〇万円が相当である。
(裁判官 小川英明 小泉博嗣 見米正)